小野旭,『変化する日本的雇用慣行』,(1997)

第1章 プロローグ

 

第1編 雇用慣行の比較分析―相違点と類似点
第2章 本編の課題と要約
第3章 外資系企業の雇用慣行
第4章 アメリカ企業および在米日系企業の雇用慣行

 

第2編 生え抜き重視の内部昇進制度
第5章 本編の課題と要約
第6章 生え抜き登用の内部昇進制度とその変化
第7章 管理階層別にみた賃金構造
補論・第8章 韓国の生え抜き登用率

 

第3編 流動的な労働市場と賃金構造―年功賃金の変化―
第9章 本編の課題と要約
第10章 労働力の内部養成型と外部調達型
第11章 外部調達と年功賃金

 

第12章 エピローグ

 日本の雇用慣行は「特殊」であると言われてきた。確かに、「特殊」なところもある。例えば企業別労働組合や職能資格制度といった賃金制度は、他の国では観察されない現象である。他にも、(特に若者の)離職率の低さが日本の特徴として挙げられる。この背後にあるのは、「生え抜きの労働者を優遇する内部昇進制度」であり、これが若年労働者の移動率が低く抑止し、労働者を一つの企業に定着させてきた。

「日本的雇用慣行」という用語は、日本の雇用慣行が「特殊」であるというイメージを喚起する。しかし実際に調べてみると、日本に「特殊」的だと考えられていた現象が、他の国でも観察されたりするのである。重要なのは、日本の雇用慣行の共通性と特殊性について、データに基づき冷静に判断することである。

この本は、日本的雇用慣行を構成する要素、特に「生え抜きの労働者を優遇する内部昇進制度」の存在とその近年の変化を、実証的に明らかにしている。国際比較分析から、日本の雇用慣行についての共通性と特殊性の双方を明らかにしている。

日本企業についてみると、生え抜き重視の内部昇進制度、解雇を避けようとする強い傾向、同一職種の下でも年齢とともに上昇する賃金等が、他の国と異なる主な特徴として指摘できる。他方、熟練の企業間における転用可能性(熟練の社会的共通性)は、日本企業、在日外資系企業、アメリカ企業、在米日系企業に共通して観察できる。加えて、アメリカでも、勤続を考慮に入れた昇進が存在することなどが示されている。

「特殊性」を強調しすぎるのであれば、各国に共通してみられる労働市場一般の特徴や、多くの国に共通して影響を与えている要因(グローバル化、サービス経済化など)の存在を取りこぼしてしまう。この本は特に1980~1990年代の変化を対象にした本であるが、その後の変化もきちんと実証されるべきだと感じた。