小杉礼子・原ひろみ編著『非正規雇用のキャリア形成―職業能力評価社会をめざして』(2011年)

非正規雇用のキャリア形成: 職業能力評価社会をめざして

非正規雇用のキャリア形成: 職業能力評価社会をめざして

非正規雇用で働く人々のキャリア形成を促進するために、実践的な能力開発の機会を提供し、職業能力が社会的に評価される仕組みを考えるとともに、「ジョブ・カード制度」について検討する。

序章 非正規雇用者のキャリア形成と政策対応(小杉礼子・原ひろみ)

第1部 非正規雇用の職業能力開発とキャリア形成の実態
第1章 職業への移行の脱標準化はいかに起こっているのか?(香川めい)
第2章 非正規就業する若者が正社員へ移行する要因は何か―継続期間データを用いた規定要因分析(山本雄三)
第3章 正社員への移行の実態と課題―内部登用の可能性(小杉礼子
第4章 非正社員の企業内訓練の受講とその効果(原ひろみ)

第2部 ジョブ・カード制度の実態
第5章 正社員への移行支援政策としてのジョブ・カード制度の現状と課題(小杉礼子
第6章 教育訓練と職業能力評価の普及のために―ジョブ・カード制度の有期実習型訓練を事例として(原ひろみ)

終章 非正規雇用者のキャリア形成機会を拡大するために(原ひろみ)

この本では、正規雇用の機会に恵まれない人に対しての公的な支援による実践的な能力開発機会の提供と、職業能力評価制度の普及の必要性が主張されている。
第1部は就業者を対象としたアンケート調査の分析で、非正規雇用から正社員への移行を規定する要因、非正規雇用者の職業訓練の受講機会を規定する要因などが探究されている。
第2部では、企業へのアンケート調査やインタビュー調査に基づいて、ジョブ・カード制度について検討されている。
そしてこれらの分析から、非正規雇用者のキャリア形成に対して、必要で、実行可能な政策的支援を論じている。

結構、難しい計量分析手法を使っているが、いずれも手堅い分析という印象を受ける。
手堅い分析結果から、実行可能な支援策を提案しており、ゆえに、説得力がある。
正社員への移行、あるいは、職業訓練の受講に影響を与える要因は、さまざまある。しかし、この本のなかでは、特に「政策的な支援に結びつけうる要因に特に焦点」をあてて分析がされており(第3章)、それに基づいて、実行可能な政策が議論されている。

ただ、分析は手堅いけど、ちょっと退屈な印象も受ける。
それは、結果が、ある意味、「当たり前」だからだろう。
例えば、学歴が高く、男性であり、年齢が若いほど、非正規雇用から正社員への移行確率が高いとか、職業訓練を受けた方が正社員になる確率が高いとか。

さらに、このような分析は、たとえば「正規雇用」、「非正規雇用」といった、既存のカテゴリーを前提としていることも気になる。
非正規雇用の状況が「悪い」ことを前提として、非正規雇用者が、いかにそのような状況から「脱出」しうるかを問う。
つまり、カテゴリーの再考、具体的には、現在の雇用形態のあり方の再編、といった視点を出しにくい。

しかし、こういう「当たり前」の結果をちゃんと示すことは大事なんだと思う。
このような分析結果が積み重なり、実行可能で効果的な支援策の説得性が示されれば、と思う。

そして今後は、この本で提案されているような公的支援が、就業者の職業能力開発にどのように役立つのか、それが検証されるような研究が出てくれば、と思った。