堅田香緒里・白崎朝子・野村史子・屋嘉比ふみ子編著『ベーシックインカムとジェンダー―生きづらさからの解放に向けて』(2011年)

ベーシックインカムとジェンダー―生きづらさからの解放に向けて

ベーシックインカムとジェンダー―生きづらさからの解放に向けて

私たちの望むものは多様な生を保障する公正な社会。
ベーシックインカムは、性別役割分業と家父長制に縛られ、制度によって選別される暮らし方・生き方からの解放をもたらすか。

第I部 ベーシックインカムジェンダー現代社会における女の位置付けとベーシックインカム
現代社会における女の位置付け;女にとってのベーシックインカムベーシックインカムは、女にとっての「解放料」か「口止め料」か?)

第II部 様々な「おんな」の立場から―ベーシックインカムを語る
性労働問題の課題と展望(屋嘉比ふみ子)
社会活動と「食っていくこと」のはざまで(野村史子)
自由と自律〜ベーシックインカムをめぐって―シングルマザー、サバイバーの立場から(白崎朝子)
暮らし方・生き方モデルを示す制度にNo!―私が私の暮らしを生きる権利を阻害させないためのベーシックインカム
女/学生/ベーシックインカム―女/学生に賃金を!(堅田香緒里)
うっとりする時を取り戻すために(佐々木彩)
ケアワーカーと貧困、低学歴問題としての不登校・引きこもり(吉岡多佳子)
私とベーシックインカム(楽ゆう)
セクシュアル・マイノリティの立場からベーシックインカムを考える―ジェンダー校正を踏まえた社会保障のユニバーサル・デザインに向けて」(ミナ汰(原美奈子))

第III部 座談会ベーシックインカムは家父長制を打ち破れるか(桐田史恵・瀬山典子・野村史子・屋嘉比ふみ子、司会=白崎朝子)

ジェンダーの視点からのベーシックインカム(BI)論。もっというと、「女の貧困」の視点からのBI論。
「この本は、BIを必要としている当事者の声を届けるものにしたい。」(p.200)
実は、BIのことは、そんなに書かれていない。
シングルマザーの貧困、女性の賃金の低さ、DV、女性の社会運動など、寄稿した人が行っていること・考えていることが、中心に書かれている。

様々な立場で生きてきた人が、それぞれの立場で、BIの可能性について議論をしているところが、面白い。


「社会活動と「食っていくこと」のはざまで」(野村史子)

多くのNPOは金がなく、最低賃金ぎりぎりの低い賃金しか出せないか、あるいは有償ボランティアという矛盾だらけの働き方を提供するかであり、故にNPOで働こうとするのは、低賃金を前提として労働者、すなわち多くの場合女だということになる。(p.81)

NPOで働くということは、社会活動で食っていくということである。生きにくい社会をなんとか変革しようとすればするほどNPOは貧乏になり、NPOの活動家も貧乏になる。膨大な女のただ働き労働と身をすり減らす労働に支えられて、かろうじて日本のNPOはその存在を維持しているといっても過言ではないだろう。(p.82)


「自由と自律〜ベーシックインカムをめぐって―シングルマザー、サバイバーの立場から」(白崎朝子)

ホームレス当事者がベーシックインカムを受給できるようになったとき、そのお金を使って生活を組み立てるノウハウや、自律性というものが生活保護以上に問われるかもしれないと痛感した。(p.97)

個人単位として生きてく自律性を獲得するためには、老若男女問わず様々な意識改革が必要だ。(p.98)

この指摘は、もっともだと思う。でも、そうであればこそ、導入までの道は遠く、険しい。

この国では、個人単位で生きることのトレーニングは教育現場や家族関係の中で、今、なされているとは言い難い。ゆえにベーシックインカムを推進する運動は、個人単位で生きるという自律性を獲得するための意識変革―コンシャスネス・レイジング的な運動を伴わない限り、導入後の精神的な混乱を生みだす可能性もあると私は予想している。(p.99)

BIは「誰」を念頭に置くかで、その印象が大きく変わる。
この本への寄稿者たちは、BIを必要としている。しかしそれは、現行制度のなかで、彼女たちは貧困で、ゆえに、とても生きにくい思いをしているから。

この本は、あくまで、「BIを必要としている当事者の声」を届けることを目的にしたもの。
論者によって、BIへの立場は違うだろう。

ただし、労働、福祉社会保障など、様々な社会の問題の解決をBIに求めるのは、間違いだと思う。