木下武男『格差社会にいどむユニオン――21世紀労働運動原論』(2007年)

格差社会にいどむユニオン―21世紀労働運動原論

格差社会にいどむユニオン―21世紀労働運動原論

この格差社会をぶち壊せるのは、法律でもなければ行政でもない。
それは、働く者たちの連帯を社会的な力に変えるユニオニズム以外にない。
戦後における日本型労働運動=企業別労働組合衰退の根本原因を見すえ、労働運動新生の基本方向を大胆に提示。

第I部 労働社会の大転換を見すえる
第1章 グローバリゼーションの衝撃
第2章 企業中心社会のもとでの日本の格差社会
第3章 格差社会から階層社会への転成

第II部 労働運動のルネッサンス
第4章 労働組合の機能と組織性格
第5章 企業別労働組合体制を脱却する方途を探る
第6章 新ユニオン運動の提唱
第7章 福祉国家戦略と「労働政治」の展開

第III部 戦後労働運動史の断面―企業別労働組合の形成
第8章 戦後の高揚と企業別労働組合への水路(一九四五〜六〇年)
第9章 企業主義的統合と労働運動の跛行的展開(一九六〇〜七五年)
第10章 労働運動の後退と労働社会の構造転換(一九七五年〜)
第11章 企業別労働組合をめぐる論争をふりかえる

購入してからII部の一部を読み、放置していたんだけど、今日は一気に第III部を読了。やや表現が硬く、難しい本だけど、日本の戦後労働運動の歴史を勉強し、今、生まれつつある「新しい労働組合運動」の流れを把握するには、よい本。
労働組合、労働運動に関する本があまりないなかで、こういう勉強になる本は貴重である。

歴史のなかで日本の労働運動をみれば、それぞれ輝く瞬間をもっていた。しかし、戦後をくくってみるならば、その歴史は、戦後の一瞬の高揚とそれ以降の長い下降線でとらえることができる。長い下降線だから、石が坂道を転がるように、自然現象のように錯覚しかねない。しかし、民衆と社会集団が織りなす原因と結果がある社会現象である。それでは何故、戦後労働運動は一路、後退の道をたどってしまったのだろうか。それを解明するためには、時期を分け、それぞれの特徴を検討しなければならない。(p.250)

筆者はこのように述べ、戦後労働運動を5つの期間に分け、その歴史を記述している。
日本の戦後の労働運動がどのようにして敗北し、企業別労働組合が成立していったのか。年功賃金と日本的雇用慣行という背景のなか、「日本的労使慣行」、すなわち、労使一体感や運命共同体的な考えにある企業別組合が成立していったのか・・・。

今の、日本の企業別労働組合という「型」は、このように、歴史的文脈に規定されている。一度成立してしまった「型」は容易には変化しない。
しかし筆者は、企業別組合の「宿命」論を退けて、以下のように述べる。

グローバリゼーションによる労働市場の構造的変化に対して労働運動の側が、企業別組合の克服や、仕事基準の同一価値労働同一賃金原則を打ち出した意味は大きい。
1960年代以降の労働運動は年功賃金と企業別組合を前提にした運動であった。それから40年以上経ち、労働運動は新しい路線を選択しつつあるようにみえる。この方向が、多くの労働組合や働く者に受け入れられるならば、戦後労働運動の再出発になり、労働運動新生の可能性が開かれるだろう。(p.321

そこで重要になってくるのが、昨今の現状、特にグローバリゼーションの進展のなかでの労働社会の変容を背景にした、新しい社会システムの構築と、そのための企業別組合克服の主体論、なのである。