梅澤充『間違いだらけの抗ガン剤治療―極少量の抗ガン剤と免疫力で長生きできる』(2006年)

副作用に苦しまずに長生きしませんか?抗ガン剤はガンも正常細胞も殺す!抗癌剤と免疫力で延命効果増大の新治療法を問う!ガン治療革命。

第1章 ガン治療の基礎知識
第2章 抗ガン剤治療の嘘と真実
第3章 抗ガン剤治療の実情と問題点
第4章 抗ガン剤以外のガン治療(代替療法
第5章 デタラメな民間療法はなぜ流行る?
第6章 極少量の抗ガン剤と免疫力で長生きできる!
第7章 患者さんと治療効果の紹介

著者の梅澤充氏は町田市民病院の医師である。
著者のブログ:現在のガン治療の功罪〜抗ガン剤治療と免疫治療

抗ガン剤治療に関することだけじゃなく、ガン治療におけるエビデンス、医者と患者との関係、インフォームド・コンセントの実態、治療の効果をはかる奏効率と生存期間の違いなど、日本のガン治療をめぐる実態について書かれており、おもしろかった。

筆者によると、日本のガン治療は、奏効率(治療によりガンが半分以下の大きさになった患者の割合)を高めることを至上命令として行われている。実際の治療の場面で、医者が「30%の確率で効く」ということは、この奏効率を指しているという。

しかし、種々の治療データをみると、この奏効率と治療後の生存期間は比例しない。たしかに抗ガン剤はガンを小さくする効果があるが、同時に、身体の正常な細胞をも傷つけ、人の免疫力を弱めることで、生存率を下げるのだという。実際、治療後の生存率でみると、抗ガン剤を投与することによって伸びる生存期間は、ほんの数ヶ月に過ぎないという。(ただし、この数字はガンの種類により、ガンによっては、すごく抗ガン剤が効くものもあるという。)

また、日本の医療の現場では、このようなエビデンスの開示はほとんど行われていないという。筆者の意見でおもしろいのは、「現在の理不尽な抗ガン剤治療こそが、“エビデンスのない”いかがわしい民間療法を助長している」というものだ。筆者自身、いかがわしい免疫治療クリニックに在籍し、その効果を信じていた時期があるという。しかし、「免疫治療単独では、ほとんど制ガン効果は認められない」という。(詳しい説明は、本書の第5章を参照)
筆者によると、現在のエビデンスについて正しく説明してくれて、それを患者さんが納得して、十分な理解の後に治療を行うことは、今の日本ではほとんどない。たいていは、「妥協できる副作用の範囲で可能な限り大量の抗ガン剤を患者さんの体内に入れようとする」“標準的抗ガン剤治療”が行われており、それはいったん始まると、やめたり、量を少なくしたりということが、ほとんどないという。患者は、医者の「30%の効果がある」という言葉を信じるが、抗がん剤治療のきつさに耐えきれなくなり、“エビデンス”のしっかりとしない民間免疫治療(多くは健康食品などの摂取)などに逃げてしまうという。

よりよい治療のためには、エビデンスは大事である。しかし、病気になった当人からしたら、それは「他人の確率的なデータ」に過ぎない。
病気になるのは、かけがえのない自分であり、家族であり、友人なのだ。実際に、病気の特徴はそれぞれだし、薬が効くか効かないかも、それぞれ。
だからこそ、逆説的にも、たった一人の人の「がんが治った」というような体験例を鵜呑みにしてしまうのだと思った。藁を持つかむ思いで。

この本を読んで、ガンになると大変だなあ、と思った。ならないように十分に注意する、早期発見のために検診はきちんと受ける、そしてガンになってしまったときには、医者の言葉を信じつつ疑い、自分に最適で納得のできる治療を選択すべきだと思った。