山崎憲『デトロイトウェイの破綻――日米自動車産業の明暗』(2010年)

デトロイトウェイの破綻 <日米自動車産業の明暗>

デトロイトウェイの破綻 <日米自動車産業の明暗>

日本は勝ったのか?グローバル化のなか労使一体で“トヨタウェイ”を移植したビッグスリーの結末は…。

第1章 一九八〇年代以降の経営努力―ただ手をこまねいていたわけではない
(日本の強みを探る;キャッチアップ努力のはじまり;労働組合のアプローチ;生産現場で何が起こったのか?―労働組合の経営協力のプロセス;労働組合による経営コミットメントの効果と限界)
第2章 揺らぐ社会保障基盤―安定したミドルクラスはどこへ
社会保障基盤を作り上げてきた労働組合;市場競争激化の進展;経済・社会政策の変化;労働組合―二つの方向性)
第3章 ニューディール型を壊したもの
ニューディール型労使関係システムの成立と特徴;米国自動車産業の労使関係システム;フォード・システムの限界;ヘゲモニーの移行と矛盾;労使関係と従業員関係)
第4章 労使関係はどこに向かうのか
(労使関係とは何か;今後の課題)

本書の前半部分は、抵抗勢力としての労働組合のイメージに対し、1980年代から継続して経営側に協力的だったことが明らかにされ、後半部分では、医療保険や年金などの社会保障において労働組合がどのような役割を担ってきたのか、そして、労働組合が経営に強力することでその役割はどのように変わってきたのかが明らかにされる。

1980年代よりはじまった日本の自動車メーカーの北米現地生産が、アメリカの労使関係にどんな影響を与えたのか。日本企業との厳しい市場競争、そして日本企業で働く従業員の組織化の困難のもと、全米自動車労働組合UAW)は自ら経営側に協力することを選択した。
それは、労働組合社会政策の担い手としての視点が低下していくことを意味している。アメリカの社会保障制度は、個人や企業が負担することが前提となっているシステムであり、労働組合の立ち位置の変化は、社会保障制度の変化にも結びつく。

本の最後で、筆者は、「労使関係の方向性を米国自動車産業に限定した場合、二つの道が想定できる」という。一つは、企業競争力向上のためにいっそう政府、経営者、労働組合の枠組みを強固なものとする方向。
もう一つは、労働組合社会政策的役割を回復させる方向。これは、自動車産業や企業の枠を超えて、職業訓練、年金、医療保険、労働分配向上、労働者の自己実現と公正な取り扱いの達成を目指してメゾ調整のための基盤を構築する、という。

この後者の道は困難なように思えるが、筆者らが労働政策研究・研修機構の研究プロジェクトで行っている、『労働組織のソーシャルネットワーク化とメゾ調整の再構築―アメリカの新しい労使関係、職業訓練、権利擁護―』が、その後者の方向性に沿ったものであろう。