"Wage Inequality: a Comparative Perspective"

Lemieux, Thomas, 2011, "Wage Inequality: a Comparative Perspective", Australian Bulletin of Labour, 37(1): 2-32.

Lemieux氏は、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の経済学の教授。
この論文は、賃金格差に関する近年の研究をまとめたもの。

主な結論は2つ。

  • 1. FreemanとKatzによって15年前に紹介された"SDI (Supply, Demand, Institutions)"による説明は、いまだに有効である。異なる国で観察される賃金格差のすべての変化を説明できる単一の説明要因などはない。異なる国における賃金格差の変化は、SDIの異なる要素によって説明される。しかし、いまだに欠如しているのは、SDIのどの要素が、どのくらい格差を説明するのかを、フォーマルな方法で評価することである。
  • 2.アメリカ、カナダ、オーストラリアのような国々で、分布の上層で、なぜこれほどまでに不平等が増加しているのかを、われわれはまだ十分には理解できない。

この論文によると、賃金格差を説明する要素として、「制度」は重要。最低賃金労働組合の効果を重視すべきだけど、なかでも組合の効果は大事。
脱組合化(de-unionisation)は、異なる国の違いを説明する。


でも、この論文を読んで思ったことは、つまりは、「いろいろな要素が大事」ということ。
賃金格差の変化を理解するためには、制度、需要、供給、そのすべてが大事。
結局は穏当な結果。まあ、計量分析なんて、そんなもんだろうけれど。

日本の賃金格差の変動を理解する上で、組合はどれほど大事なのだろうか。
「脱組合化」といっても、欧米と日本とでは、労働組合の状況が大きく異なる。

脱組合化(労働組合の組織率の低下、賃金交渉制度の変化)などで賃金格差の変動が説明されるというが、それは、純粋に、「労働組合の変化」だけを表しているのだろうか。実際のところは、労働組合を変化させる、社会の変化が、その背景にあると思われる。