"The Distribution of Earnings in OECD Countries"

Atkinson, Anthony B., 2007, "The Distribution of Earnings in OECD Countries", International Labour Review, 146(1-2): 41-60.

OECD諸国における賃金分布の変化を示し、その変化を説明しようとするもの。

Earnings inequality in the OECD countries is commonly seen to have widened considerably since 1980 - and this is generally explained by the steady increase in relative demand for skilled labour due to skill-biased technical change and the growing exposure of unskilled workers to international competition through globalization. But this single explanation now looks questionable: the increase in inequality has been uneven across countries, and greater earnings dispersion has mostly been occurring at the top of the distribution. This article takes a fresh look at the evidence and considers alternative explanations to supplement that provided by the race between technology and education.

これまでの経済学の文献は、グローバリゼーションと技術変化によってもたらされた、技能偏向的技術変化仮説(SBTC)によって、賃金格差拡大を説明しようとしてきた。しかし、今では、この説明は疑問視されている。
なぜならば、賃金格差の拡大は国によって一様ではなく、より大きな格差拡大は、分布のトップで起こっているからである。

OECD12カ国の賃金分布の、1965-2005年の間の変化を検討した。検討したのは、第9十分位点(分布のトップ)/中央値の比率、第3四分位点(分布の上位)/中央値の比率、第1十分位点(分布のボトム)/中央値の比率、である。対象国は、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、ドイツ、イタリア、ポルトガルフィンランドスウェーデンチェコ共和国ポーランド

検討の結果、1980年以降、これらの国で賃金格差の「一般的な」拡大があったという結論は支持されないということがわかった。分布のボトム層の賃金の下降は、支配的トレンドではない。また、「1980年代以降格差が拡大した」という主張は、しばしば「1980年以前は賃金格差は安定的だった」という前提に立っているが、それは誤りである。

ただし、より明確に観察されることは、トップ層の賃金の上昇である。イギリス、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、ドイツ、イタリア、ポルトガルにおいて、1980年以降、中央値と比較した第9十分位点の賃金比率は、10%以上も上昇した。

この論文では、トップ層の賃金が上昇したことを、(1)支払い規範に関する行動モデルと、(2)スーパースター理論と、ハイアラーキカルな組織における賃金理論の組み合わせによって、説明した。


・・・分析結果自体はわかりやすいけれど(記述的なものだし)、説明図式がよくわからない。賃金が支払われる制度的文脈を無視して、過度に抽象化したモデルで説明しようとしている。

単純に考えれば、たとえばアメリカで上位層の賃金が上昇したのは、ストックオプションで稼ぐ額が増えたから、新しい商品を生み出す革新的なアイディアの重要性が高まり、それらの仕事をする管理職や技術者の報酬が増えたから、ではないかと思う。

さらに、この分析結果は、トップ層の賃金が、中間層の賃金に比べて、上昇した、ということを示している。ならば、中間層の賃金低下をも、問題にしなければならないのではないだろうか。