Wanrooy, Brigid van, et al., Employment Relations in the Shadow of Recession: Findings from the 2011 Workplace Employment Relations Study, (2013)

Wanrooy, Brigid van, Helen Bewley, Alex Bryson, John Forth, Stephanie Freeth, Lucy Stokes, Stephen Wood, 2013, Employment Relations in the Shadow of Recession: Findings from the 2011 Workplace Employment Relations Study, Palgrave Macmillan.

1. Introduction
2. In the Shadow of Recession
3. Employment and Flexible Working
4. The Involvement of Employees in Workplace Change
5. Pay and Rewards
6. The Quality of Jobs and Employment
7. Employee Well-being
8. The Quality of Employment Relations
9. The Impace of Recession
10. Conclusion 

イギリスのWorkplace Employment Relations Study(WERS)の2011年調査の結果をまとめた本。WERSは、イギリスの2500以上の職場の人事マネージャーと従業員を対象として、雇用関係について調べる調査。1980年から実施されており、2011年は第6回目となる。WERSは、イギリスの雇用関係を知るための最も重要な調査、ということらしい。

調査結果の速報はFirst Findingsがまとめられているが、この本は2つ目の、より詳細で実質的な調査結果レポートとなる。

 この本の目的は、2004年から2011年の間における、イギリスの雇用関係の変化を評価することである。特に、景気後退のさなか(in the shadow of recession)に雇用主がどんな雇用戦略をとり、それが職場や様々なタイプの雇用者に対してどのような影響を与えたかが記述されている。

このような調査研究は、長期間に渡る景気後退を経験している日本の職場を分析する上で、参考となるだろう。(日本ではこのような調査はないので厳密な比較はできないけど、)イギリスと日本の違いがわかって興味深い。たとえば、2004年から2011年の間に、大企業の方が景気後退の影響を受けており、大企業、パブリックセクターの方が、雇用に関する措置(賃金カットなど)を実施した。また、属性別では、男性、フルタイム労働者の方が、賃金カットなどを経験。有期雇用者やテンポラリー雇用者と比較して、常時雇用の方が仕事の調整を経験している(労働時間のカット、無給の休暇など)。

「パブリックセクターも景気後退の影響を受けた」のは、この時期に財政赤字を解消するために、政府によって多くの部門の予算がカットされたことと関連している、と思う。また、この本によれば、「常時雇用者の方が、より多くの柔軟性を提供することが期待されている」という。イギリスはEU指令を受けて、有期雇用者やテンポラリー雇用者を保護する法律を制定している。このように法律で規定された有期雇用者やテンポラリー雇用者の雇用条件を変えるより、常時雇用者の雇用条件を変える方が、雇用主にとってより容易なのだろう、と推測される。

また5章は、賃金と報酬について取り上げ、職場で賃金や報酬がどのように決定されているかを説明している。この章での記述から、1980年代半ば以降に、イギリスの職場でユニオンの影響力が低下したことがわかった。イギリスでは、ユニオンが賃金その他の労働条件について交渉するためには、ユニオンがその職場で認定(recognised)されていなければならない。しかし、職場でユニオンが認定されていても、雇用者の賃金や労働時間について雇用主が何か判断をするとき、ユニオンと交渉することは少ないのだそう。また、賃金制度についても個々の職場で決められていて、どの職業グループの賃金にも集合的交渉制度が適応されていない職場は、民間セクターでは93%にも上るそうだ。イギリスの労働関係のニュースなどを読んでいても、ユニオンの文字がなかなか出てこないのは、こういう事情に寄るということがわかった。