NPO法人POSSE・今野晴貴・川村遼平著『ブラック企業に負けない』(2011年)

ブラック企業に負けない

ブラック企業に負けない

ブラック企業の見分け方から対処術までを解説する。

1 ブラック企業の人間破壊システム
2 ブラック・パターン
3 ブラック企業に負けない就職活動
4 ブラック企業に負けない「合言葉」
5 ブラック企業への対処術
6 ブラック企業発生の背景

この本では、ブラック企業が、いかに違法状態で若者を働かせ、職場での異常なまでのハラスメントによって人格を破壊し、その後の人生をも破壊するまでに打ちのめしているか、ということが書かれている。
POSSEでの実際の相談内容が紹介されており、現代日本社会に存在するこの「ブラック企業」のひどさに、言葉を失った。
とにかく、ひどいとしか言いようがない。
このような、人格を破壊する職場で働いた若者は、その後の人生も破壊されてしまう。
このような状況は、絶対に防がなくてはならない。

ブラック企業の実態だけではなく、具体的な対処法、闘い方も記されている。たとえば、「ブラック企業に負けない「合言葉」」は面白い。残業やハラスメントに関する記録の残し方など、参考になる。

しかし、そもそも、なぜ「ブラック企業」が増えたのか?それは、日本だけなのか?
6章でその「背景」が分析されている。

そもそも、従来から日本の企業の「命令の権利」は諸外国と比べて際立って強いものであった。それは終身雇用、年功賃金、企業別組合という日本企業の労務管理の特徴を関連している。それらは総じて一つの企業に長期間勤めるという日本独特の労働市場を作り出した。(p.88)

日本型雇用の延長としての「ブラック企業」(p.89)

日本の労働社会の特性、日本人の労働観、そして日本的雇用慣行とは何であったのかが分析されるべき、と思った。
また最後には、市民社会というより広い視点から、この問題についての解決策が議論されている。

ブラック企業をなくしていくには、今後、現在の規範では合法とされている命令やパワーハラスメントにたいして積極的に個々人を支援しながら争い、新しい規範を創り出していくことが求められている。(p.100)

もちろん、違法行為を明るみに出し、取り締まり、さらに法律で規制し、そのための政策を考えることが必要だ。しかし、この問題の根源には、企業の「働かせ方」、労働者の「働き方」、そしてこの働き方・働かせ方に関する規範がある。「死にものぐるいで働く」ということを当然視しないような規範が求められる。また、同じ職場で働く者同士の過度な競争をよしとする考え方にも、疑問を呈していく必要がある。

薄いし、すぐに読める。しかし、この本には、「ブラック企業」の実態と対処法、背景と解決策が、コンパクトにまとめられている。
ただ、このような企業は、どのくらいの割合で存在しているのかが、少し疑問だった。アンケートの代表性に疑問があるので、よくわからない。
例えばランダム・サンプリングの調査をして、「ブラック企業」の実態と背景について調べる、そして労働現場の実態分析をする必要があると思った。