菅山真次『「就社」社会の誕生―ホワイトカラーからブルーカラーへ』(2011年)

「就社」社会の誕生 ?ホワイトカラーからブルーカラーへ?

「就社」社会の誕生 ?ホワイトカラーからブルーカラーへ?

新卒就職・終身雇用を常識としてきた「就社」社会・日本。
製造業大企業労働者のキャリアと雇用関係の変遷を辿り、新規学卒市場の制度化過程を検討することで、その成り立ちを解明する。

序章
第1章 歴史的前提―産業化と人材形成
(大工場労働者と熟練形成;職員層の形成)
第2章 「制度化」の起源―戦間期の企業・学校とホワイトカラー市場
(新規学卒採用の「制度化」;学校による就職斡旋とその論理)
第3章 「日本的」企業システムの形成―戦争と占領下の構造変化
(「日本的」雇用関係の形成―就業規則・賃金・「従業員」;「企業民主化」―財界革新派の企業システム改革構想)
第4章 「企業封鎖的」労働市場の実態―高度成長前夜の大工場労働者と労働市場
第5章 「間断のない移動」のシステム―戦後新規学卒市場の制度化過程
(中卒就職の制度化―職業安定行政の展開と広域紹介;中卒から高卒へ―定期採用システムの確立)
終章

521ページもある厚い本。しかし、面白かった。(※精読はこれから)

本書では、長期のタイム・スパンをとって、製造業大企業における男子労働者のキャリアと雇用関係の変化と、学校から職業への「間断のない移動」のシステムの成立をできるだけ実証的に検討することで、「就社」社会・日本の誕生を描き出してみたい。

およそ一世紀にもわたるこの長い進化のプロセスは、大づかみにいえば、最初ホワイトカラーの上層で発生した慣行・制度が、ホワイトカラーの中・下層へ、そしてブルーカラー労働者へと、段階的に下降し、拡延していった歴史と捉えることができる。

本書は、「就社」社会・日本の歴史的成り立ちを、これを特徴づける慣行や制度に注目して、「ホワイトカラーからブルーカラーへ」をキー・ワードとして解き明かす試み。(序章より)

「日本的」雇用慣行の形成と成立の過程を、戦前期から長期のタイム・スパンで描く。
ただ、この本は、企業システムだけに目を向けているのではない。企業システムを取り舞く様々な制度に目を向け、「就社」社会日本の成り立ちを、一次資料の丁寧な読み込みから解き明かすもの。特に、日本における「教育」の重要性に焦点をあて、企業と学校のリンケージの強さとその成り立ちに注視する。
企業システムは、なによりも、それを支える人材育成と人材供給の視点からも捉えられるべきだからである。

考察を終え、終章では、「あらためて浮き彫りとなったのは、伝統がもつ重み、ないし歴史経路依存性の大きさ」であると指摘する。

「就社」社会と呼ばれるにふさわしい現代日本社会の「制度」は、通常予想される以上に、近代以前から連綿と受け継がれてきた「伝統」の強い影響力のもとで形成されたことが分かる。

本書では、そのような伝統として、(1)自律的・自治的な組織・団体による入職規制=資格制度の欠如、(2)高い教育的達成と学校・教育への社会の信頼、(3)企業を「有機的組織体」としてみる考え方、が重要であることを指摘した。さらに、計画化の時代の遺産として、(4)中央集権的な情報の集中管理と行政による大幅な介入、を付け加えるべきかもしれない。

本書は歴史研究であるがゆえ、今起こりつつある「日本的」雇用慣行の変化ならびに変革に関しては、あまり多くを述べない。しかし筆者が指摘するように、「いま、もとめられているのは、原理的な矛盾の存在に自覚的でありながら、なおかつ、「伝統」の最も優れた部分を活かしていくという視点に立つ、制度改革へのアプローチなのではないだろうか。」

日本の歴史的背景に注目し、各種の制度的つながりにも目を配った、表層的ではない「日本的」雇用慣行の分析、解明が必要である。