林宏昭『税と格差社会―いま日本に必要な改革とは』(2011年)

税と格差社会―いま日本に必要な改革とは

税と格差社会―いま日本に必要な改革とは

消費税は“悪い税”なのか?法人税引下げは大企業優遇か?社会保障との関係は?自然災害に対してどこまで補償するのか―長期停滞で格差拡大感が強まる今日、公平で効率的な税体系をどう構築すべきかを、背景にある社会環境の変化をふまえて検証する。

第1章 格差は拡大しているか
第2章 税は誰のためにあるのか
第3章 少子高齢化社会と所得税―控除で得する人、損する人
第4章 所得税の再分配効果
第5章 格差社会と資産所得課税
第6章 消費税の何が問題か
第7章 格差社会と企業課税
第8章 地域格差と住民負担
第9章 「税と社会保障の一体改革」で格差は縮小するか
第10章 災害と税負担

日本の税制に関する基本的な事項を説明するのみならず、給付つき税額控除、「税と社会保障の一体改革」、格差社会・・・などの税に関する今日的トピックを扱う。勉強になった。

いくつかの論点を挙げてみる。

第一に、「現行の負担は現在の財政規模を賄うにも不足している状況」という点だ。日本の財政の規模は他国と比較して大きいものではない。しかしながら、税制赤字は拡大を続けている。それは、「現在の政府に求められる行政サービスに対して、全体としての税負担は低すぎる」(p.46)からだ。
筆者いわく、「1990年代後半以降、国民が負担するよりもはるかに大きな財政支出を享受してきていることを考えれば、税収増はまずギャップを解消することに充てられるべきであり、現状よりも充実した政府サービスを目指すのはそれが実現してから、ということになるのは当然」(p.47)である。

第二に、税を考えるときに、どれだけ負担をし、その代わりに、どのくらいのサービスを受け取るのか、このことがよく見える、ということが必要である。
しかしながら、今の日本の税の仕組みは、これが見えにくい。
「税と社会保障の一体改革」では、消費税を社会保障のための目的税にすることが議論されている。筆者によれば、その妥当性を判断するポイントは、社会保障の受益と消費税負担には直接的なリンクが認められないこと、という。よく知られているように、消費税には逆進性があり、家族人員が多い世帯ほど負担が大きくなりがちである。その負担は社会保障のサービス給付とはリンクしていない。
確かに、「広く薄い負担」による税収確保という点は消費税の大きな魅力だ。しかし、「どのくらい負担し、どのくらい受け取るか」という点がなおざりにされてはならない。

第三に、所得控除と税額控除の違いである。これは単純に勉強になった。
所得控除は所得が高く適用される限界税率が高い納税者ほど大きな税負担の軽減をもたらす。一方、税額控除は、どの所得層でも税負担の軽減は同じ。

所得控除(一般が38万円、特定扶養が63万円)を廃止するとする。その結果増加する税収を財源として扶養1人あたりの税額控除額を求めると、ほぼ6万円になる。この規模での税額控除が実現されたとすると、所得控除制度のもとでの税額と比較して、高所得者の負担が増加し、低所得層で負担が軽減されるという結果という。

それにしても、所得控除の仕組みはたくさんあり、複雑。税に関する負担と受益のバランス、所得格差への影響を考えて、最適な控除の仕組みを考えるべきである。