Jonsson, J.O., C. Mood, and E. Bihagen, "Income inequality and poverty during economic recession and growth: Sweden 1991-2007," (2013)

Jonsson, J.O., C. Mood, and E. Bihagen, 2013, "Income inequality and poverty during economic recession and growth: Sweden 1991-2007," GINI Discussion Paper 60, Amsterdam: AIAS.

この論文は、1991~2007年のスウェーデンを事例にして、所得格差の拡大は、(絶対的)貧困率の上昇に必ずしも結びつかないことを実証している。所得格差と貧困率の変化は、ビジネスサイクルの変化に結びついている。この時期のスウェーデンにおいては、所得格差のトレンドと絶対的貧困率のトレンドの間の関係は、ネガティブであった。つまり、マクロ経済的状況の回復は、貧困率を減少させるが、所得格差を拡大させる。反対に、景気後退は貧困率を増加させるが、所得格差を縮小させる、ということがわかった。

スウェーデンは、1991年から2000年代前半までは景気後退に苦しみ、2001年から2007年(金融危機が起こる前)までは景気回復を経験した。ここで気になるのは、景気回復時に所得格差*1が拡大、という指摘である。資本所得を考慮したジニ係数は、1991年の0.22から2007年の0.30へ、大きく増加している。さらに筆者らは、分布の上位で格差が拡大したことを指摘している(豊かな層がより豊かになった)。

翻って日本のことを考えよう。他の国が所得格差を大きく拡大させた時期に、日本では所得格差がそれほど大きく拡大しなかった。この論文をもとにして考えると、それは、日本が長らく景気後退に苦しんでいたから、とも考えられる。とすれば、今後景気回復が進むにつれ、豊かな層がより豊かになって、所得格差が拡大する、ということも考えられる。

ただし、筆者らが指摘するように、所得格差と貧困率の関係は、所得格差が生み出されるメカニズム(制度的要因)次第であり、スウェーデンの事例が他の国に当てはまるかどうかは、よくわからない。また、所得格差には、社会保障制度や労働市場の要因、世帯構成などの様々な要因が影響を与えているので、なぜ景気回復期に所得格差が拡大するのかということは、もっとよく考えてみる必要があるだろう。

*1:等価可処分所得で測定