ラルフ・ダーレンドルフ『産業社会における階級および階級闘争』(1959=1964年)

Dahrendorf, Ralf, 1959, Class and class conflict in industrial society, London : Routledge & Kegan Paul.(=1964,富永健一訳『産業社会における階級および階級闘争ダイヤモンド社.)

日本語版への序文
第一版(ドイツ語版)への序文
第二版(英語版)への序文
訳者まえがき

第1部 歴史的変動および社会学的洞察にてらしてみたマルクス学説
I カール・マルクスの階級社会モデル
II マルクス以後の産業社会の構造変動
III 現代社会の階級闘争に関する最近の諸理論
IV マルクス社会学的批判

第2部 産業社会における闘争の社会学理論をめざして
V 社会構造・集団利害・および闘争集団
VI 闘争集団・集団闘争・および社会変動
VII 後期資本主義社会における階級(I) 労使闘争
VIII 後期資本主義社会における階級(II) 政治闘争

マルクスの生きた時代とダーレンドルフの時代は、大きく異なっている。当然、ダーレンドルフの時代と今の時代も異なる。
筆者によると、「無修正のままのマルクス理論は、発展した産業社会の構造と闘争を説明する力をもはや失ってしまった。」(p.78)という。
この書は、マルクスの学説と幾多のマルクス論を批判的に検討し、マルクスの哲学的要素と社会学的要素を分離し、後者に対して経験的検証を与えることで、階級理論の有用性を主張し、後期資本主義社会における階級闘争を説明する理論を構築しようとするもの。

二大階級への分離、革命による社会変革などの命題は否定される。現代の産業社会の階級構造はもっと複雑である。
特に、所有と統制の分離、労働者間の異質なカテゴリー(特にホワイトカラー労働者および完了の出現)、社会移動の制度化(学校教育の地位配分機能)、地位の平等化という問題を、どう考えるか。ダーレンドルフによると、これらは、「階級闘争における論争点とその形態」とを変えたという。
しかし、ダーレンドルフによれば、これらの構造的変化は闘争を消滅させない。

「われわれのモデルによれば、「階級」という語は、支配団体における権力の差別的な配分によって発生する闘争集団、を意味」(p.278)しているという。
全体社会の権力および支配の構造、および社会内部の特定の制度的秩序(たとえば企業)こそが、階級形成と階級闘争の構造的決定要因であり、およそこの社会に支配関係が存在している限りは、階級および階級闘争は消滅しない。階級闘争の制度化と産業民主主義の発展、あるいは産業の制度的分離という変化が労使闘争の強さと激しさを減ずるとしても、「階級闘争の根本は消滅しないのみならず、ほとんど不動」である。

マルクスの理論を大胆に否定し、後期資本主義社会の階級闘争について多くの仮説を提示。おもしろい書である。古い本ではあるが、現代の状況を照らし合わせながらこの主張を検討する必要があると感じた。

また、訳者解説によると、ダーレンドルフは、若干28歳のときにこの本を書き上げたという。おそるべき早熟。