泰山義雄「90年代以降の大阪におけるコミュニティ・ユニオン運動」(2010年)

泰山義雄,2010,「90年代以降の大阪におけるコミュニティ・ユニオン運動」『大阪社会労働運動史 第9巻 世紀の交差』393-412.

1 「格差社会」を生み出したのは
2 コミュニティ・ユニオンの「新しい労働運動」とは
3 90年代、コミュニティ・ユニオン運動が社会に受け入れられる背景
4 労働相談・救済・争議等コミュニティ・ユニオン運動
5 研究会「職場の人権」の発足と活動
6 大阪のコミュニティ・ユニオン、その特徴と問題点
7 時代の要請に応えうるユニオン運動を

研究会「職場の人権」の事務局、「労働と人権サポートセンター・大阪」の事務局次長、北摂地域ユニオンの委員長であり、ご自身も長年ユニオン活動に関わってこれらた泰山さんの論考である。
コミュニティ・ユニオンの特徴と可能性、そして課題について、実に率直に述べられており、長年の活動のなかで葛藤されてきた様子が垣間見られた。とてもおもしろかった。

コミュニティ・ユニオンとは、地域に根ざした、個人加盟の労働組合である。

ユニオン運動は80年代半ばに、日本の労働運動の「弱点」を補うものとして始まっている。「弱点」とは、企業別組合・年功賃金・終身雇用に乗らない不安定雇用労働者の救済・組織化のことである。

また当時の総評解体(87年)のなかで、総評の財産でもあった地域労働運動の「炎を絶やさない」という思いも込められていた。

ユニオン運動は、90年代から活性化し、日本の企業別労働組合の埒外に置かれた非正規労働者零細企業労働者、外国人労働者などの個別の労働相談を受け入れ、また、均等待遇要求、非正規雇用者の解雇撤回闘争などの、社会的な問題にも取り組んできた。

しかし、やはり、企業別労働組合が中心の日本の現状のなかで、コミュニティ・ユニオンの置かれた状況は厳しい。

ひとつの大きな要因は、コミュニティ・ユニオンが対象とする相談は、解雇撤回、いじめ、賃金問題など、一組合員の個別事例であることだ。それは、当該の組合員一人の問題を超えて、広く職場に共有されない。
今、上司と労働者、企業と労働者の個別的な関係のなかで、パワハラ、長時間労働の強要などが行われている。それを規制する集合的なルールの構築というところまで、影響力が及ばないのだ。

また、財政や組織化の問題がある。コミュニティ・ユニオンが主に対象としているのは、非正規雇用者などの、不安定労働者だ。お金もないし、安定しない。

しかし、筆者は、「それを理由にはしない」と述べる。

労働者の権利は、労働組合でしか守れない。使用者の横暴に対処しえるのは、労働組合しかないと断言できる。だから憲法二七条で労働者の基本権を保障しつつ、二八条では労働組合の必要性を保障している。つまり労基法と労組法があってはじめて、労働者は使用者と対等な立場を維持できる。その意味で、ユニオンは絶対に必要である。そのためにも現状を把握し、克服していく不断の努力が必要だ。

今、さまざまに深刻な労働問題が発生している。こんな状態が理想である、ということは実は易しくて、それよりも、どうやってその状態に至るかを提案することのほうがもっと難しい。
この論文を読んでいて、改めて、ユニオン運動の難しさがわかった。
しかし、何もしなければもっとひどくなる。現場で活動されてこられた方の言葉だからこそ、力強い。