佐口和郎編著『事例に学ぶ 地域雇用再生――経済危機を超えて』(2010年)

事例に学ぶ地域雇用再生―経済危機を超えて

事例に学ぶ地域雇用再生―経済危機を超えて

第1章 誘致企業と地元企業の創発による自主的な経済発展―長野県伊那市の産業と雇用
第2章 自治体主導の展開とその可能性―島根県及び斐川町地域の産業と雇用
第3章 「開放的」な産業振興と雇用創出―苫小牧の取り組み・課題・可能性
第4章 バレー構想による躍進と知識集約型産業の形成―三重県及び亀山市の事例
第5章 人口減少時代の地域社会とUIターン―長野県伊那市の経験と島根県の取り組みから
第6章 産官学ネットワークの最前線―浜松地域の戦略的産業振興と人材育成
第7章 公民館を地域拠点にした公民協働による福祉まちづくり―公設自主運営方式による松江市公民館の取り組みと地域福祉の融合
第8章 雇用危機と地方労働行政の役割

「本書の課題は、2008年秋以降の経済危機前後での、地域における産業・雇用の実態と政策の分析を通じて、持続可能な地域づくりに関する展望を明らかにすること」(序章)である。

今や、一部の企業は「成長」しても雇用機会の増大には直結せず、失業率は高止まる。雇用が実現できても、非正規雇用が増大し生活の安定・向上には結果しない、という図式ができあがってしまった。こうした図式から何らかのかたちで脱出し、生活の安定・向上に向けたシステムを作り上げていくという目的にとって、地域での産業・雇用・生活に関わる施策・営みは、どのような意味をもつのか。それを「産業・雇用の双方を含めた生活基盤の集積の場」である地域から考えていくことが必要である。

この本も、さまざまな地域の取組を紹介している。地元に根付いた中小企業が自発的な発展を遂げてきた側面が強い事例(第1章)、地方自治体主導での産業・雇用の展開(第2章)、企業誘致について様々な模索(第3章)、近年の超大型企業誘致の象徴的事例(第4章)。

地域の特徴や地域がもつ社会資源のありようによって、どのような産業・雇用政策が適切かは異なるだろう。産業誘致であれ産業振興であれ福祉であれ、地域のネットワークを活用し、地域が一つになって産業・雇用再生に向かうことが必要である。